タイムライン殺人事件あるいはさようならはなつかさん

 

ここはカッパドキアめいた大都会・岡山。

一人の人間と見まごうばかりの般若が地面に倒れ伏している。名は佐々田端束。いわゆるはなつかさん、という人物だ。

彼女は死んでいる。あまりにも死んでいるのだ。その倒れ伏した辺りは一面、錆びた鉄の水たまりができており、なんということだろう。そう、これはつまるところ、殺人事件なのであった。

 

 

タイムライン殺人事件

 

 

 

「凶器はこの週刊少年ジャンプだね」

 

ものものしく辺りを調べていた【デフォルトネーム・箱】さんがそう告げた。

手にしている血みどろの週刊少年ジャンプはカチコチに凍っていて、大変な硬度を誇る。【デフォルトネーム・箱】さんはさらに告げる。

 

「推定でダイアモンドの五倍は硬い。カッチカチやぞ!ってやつやね」

「カッチカチやぞ、ってやつなのだろうか」

カラフルではないカルボナーラを優雅にすすりながら疑問を呈したのはあめいさんだった。決してすあばさんではないが時にはキャスターマシマシチョモランマであるところのあめいさんだった。

場所は移り変わってここはタイムライン。現世とあの世を繋ぐ神聖なる場所。そこに関係者各位が集まって今回の事件についてああでもないこうでもないと頭を悩ませているのだ。

 

「本当にはなつかさんは死んだのだろうか」

「あのはなつかさんが死ぬとは思えない。きっと第二第三のはなつかさんがいつか」

 

どこからか囁く声が漏れ聞こえる。恐らくワートリクラスタのどなたかであろう。ここからはよく見えないがどうやらあちらにも話は広がっているらしい。

 

「ミステリーときいて、本格ミステリーかどうか判定するために来ました」「私は付き添いです」

 

これはぐるぐるしている二人の人物、ぐるぐるさん達の弁だ。どちらがぐるぐるさんでどちらがぐるぐるさんなのか、あるいはふたりともぐるぐるさんを装ったぐるぐるさんではないものなのか、判別はつかない。ただ、二人でぐるぐるしていた。

 

「なんかはなつかさんって人死んだって」

「はなつかさんって誰だっけ」

「なんかあめいさんのことをちゃん付けできるっていう」

「へえすごいね。惜しい人をなくした」

 

タイムラインのざわめき。はなつかさんのことを知らない人ですらはなつかさんの死を悼んでいる。

 

「この怪文書の中に登場させられても私は【デフォルトネーム・箱】さんをブロックしないし、はなつかさんが死ぬとオルタニキをお迎えできると風のフリースタイルでききました」

 

フレポガチャをぐゎんぐゎん回しながらあさぎさんは主張した。槍ニキの宝具凸を目指している途中にアンリマユが出るという快挙を成し遂げたし、エドモンだってやってくるぞ。

 

「では僭越ながら私が探偵役をします。整理しましょう。被害者はなつかさんは頭部を凍ったジャンプで殴られて死亡しました。このように」

 

【デフォルトネーム・箱】さんは手元の凍ったリスを手近な鳥類の頭部に叩きつけた。死んだ鳥類を手早くチチタプにしながらなおも続ける。

 

「そして死亡した場所は岡山です。ここに存在する者で岡山にいるのはあめいさんと、そして私のことを拙僧の筋肉が紡ぎだすメロディの人扱いした人、この二人しかいません。故にあめいさんが犯人です。私のことを拙僧の筋肉が紡ぎだすメロディの人扱いする人は私のことを拙僧の筋肉が紡ぎだすメロディの人扱いはしますが流石にはなつかさんを殺しはしないでしょう」

 

【デフォルトネーム・箱】さんを拙僧の筋肉が紡ぎだすメロディの人扱いする人はおろおろしている。リプライに困っているのだ。仕方なくヌートリアの絵を投稿した。

 

「犯人のあめいめ!これ以上カラフルな料理をつくることをお天道さまが許しても、この、【デフォルトネーム・箱】は許さないぞ!」

 

【デフォルトネーム・箱】さんは手元の凍ったリスを狂ったように振り回しながらあめいさんに詰め寄った。あめいさんはへぇー、って顔でRTをして「ヤチョウさんを殺した悪い【デフォルトネーム・箱】がいる」とツイートした。

 

「いや、犯人はあめいさんではないでしょ」

 

眼鏡をかけた生卵が口を利いた。中川さんだ。

 

「知ってる」

 

なんとあめいさんは知っていた。

 

「では僭越ながら私が探偵役をしましょう」

 

映画に登場する犬の安否を気にかけながら鮫のB級映画を観ながら月見バーガーになりながら十月さんが申し出た。

 

「まず、ここが誰のタイムラインなのかという点について。私ははなつかさんの名前は存じているけれど面識はない。故に私のタイムラインではありません」

「なるほど、そうやって容疑者を絞り込める!十月サンサスガエライステキ!」

 

十月さん信者の駅さんがなにやらヌルヌルした食べ物を啜りながら大絶賛した。

 

「そして本当に岡山にいたのが本当に【デフォルトネーム・箱】さんの挙げた二人だけなのか、という点について。【デフォルトネーム・箱】さん、貴方は事件当時どこに今居ましたか」

「私はずっと東京にいたのではなつかさんを殺すことは出来ないぞ!」

「それはどうでしょう」

 

十月さんは手早く手元の端末を操作し、【デフォルトネーム・箱】さんのホーム画面を開く。

 

「現在地を確認しましょう……ほら」

 

滋賀ではないところ。そう、そこには確かに滋賀ではないところ、と書かれていた。

 

「つまり【デフォルトネーム・箱】さんは滋賀ではないところならばどこにでも存在できるのです。例え岡山であろうとも!」

 

ぐぬぬ、と唸りながら【デフォルトネーム・箱】さんは逮捕された。後ほど明らかになったことだが動機は「みんながビックリするかと思って」とのことだった。箱さんはそういうことするよな、とy作さんが呟いた。一週間がたった。新しい週刊少年ジャンプの日にははなつかさんはまた蘇り、そして死んでいた。週刊少年ジャンプの発売ごとに生を死を繰り返す生き物だったのだ。ヤチョウさんもなんか元気に駆けまわっていた。【デフォルトネーム・箱】さんは脱獄した。独房の中央部分に琵琶湖の形の水たまりが出来ていた。独房内部を滋賀に見立てることでスキル【エスケープ・フロム・滋賀】を発動させて逃げたのだ。【デフォルトネーム・箱】さんが野に解き放たれてしまった以上、もう安心はできない。君のTLに第二、第三の【デフォルトネーム・箱】さんが現れる日も遠くはないだろう。この事件のあらましを観察していたケタ氏はこう評した。

 

「君の銀の庭みが全くないと言い切れないでもないでもない事件だったね」

 

と。